Nikon D4s | AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8G ED | f2.8 | 1/20 sec | ISO 20000

夏は恋の季節

今年の花火大会は芦屋に決めた。前日入りして場所を確認、優良座席で眺めを確保した。当日は大賑わいで、今年は10万人程度の入場者だったと聞く。
 浜辺にビニールシート、浴衣、かき氷、ビール、フランクフルトに花火。夏の風物詩を全身で物語る1組のカップルが半歩後ろに着席。花火は約1時間。トイレを済まそうと女性が立ち上がり辺りを見渡す。そのとき時計の針は開演15分前の19時15分を示していた。当日の日の入り時刻は19時00分で、トイレまでの最短ルートを辿れば開演時間は間に合うが、戻りは暗闇の人混みをかき分けるしかない。
 
芦屋サマーフェスティバルは音と花火の共演がテーマだから、大音量の音楽と花火で観客の声はかき消されるだろうと考えていた。曲と共に花火の色や形が変わりゆくなかで、彼女の帰りを待つ彼の声だけはずっと聞こえていた。電話を片手に立ち上がり、心配そうに彼女を探す眼差し。目印になるものも無い浜辺に10万人の群衆、手助けとなる明かりは打ち上げられる花火の光だけ。そこから1人を探すのは至難の業だろう。
 「いまどこ?手降ってるの見える?」「ピンクのテントの隣だよ」「いまどこ?そんな歩くはずないよ」と花火の大音量の隙間から聞こえてくる焦燥感あふれる彼の声。この間、彼にとって花火は夏の風物詩ではなく、ただ彼女の足元を照らしてくれる外灯としか考えなかっただろう。
「ただいま、ごめん」「おかえり、間に合って良かった」2人が再開できたのは、開始から1時間後の最後の曲が始まる直前だった。この夏、芦屋に轟く最後の花火は二人のために花開く。